本澤二郎の「日本の風景」(5636)
<「南京に立つ」16>
戦後80年の世界は、米国の一強体制が崩壊し、混乱と混迷期に突入、まるで第三次世界大戦突入の様相さえ見せている。日本の右傾化現象は、すでに10数年。戦前の国家神道復活さえ見せていながらも、自民党も国民の支持を失い、かじ取り役さえいないありさまだ。これに野党までもが追随し、政治的混迷を深めている。
賢明な政治指導者不在の戦後80年の日本。戦後50年の「南京に立つ」日本人の余裕を見せつける思い出のメッセージとの落差を嘆くばかりだ。数日前の北京での9・3抗日戦争勝利軍事パレードにさえも参加できない、不甲斐ない永田町にうんざりする。日本の右翼がひとり「台湾有事」を叫んでいる異様な超物価高路線をやめようとしない永田町には、安心安全な道は見えない。
1995年の日本人の自信と謝罪と余裕の記録は、まだ続く。本日は漁師町の富津市と君津市で当時、小料理店を経営していた天笠正江さんの、純粋率直な南京の思い出を紹介したい。
<「戦争は絶対反対」と天笠正江さん>
「見るもの、聞くもの全てがとりたての野菜や魚のように新鮮で、まるで夢のような一週間でした」と冒頭にメモした彼女。しかし、と言って「一つだけ心臓をえぐられる恐ろしい場面に出くわした。南京大虐殺記念館を見学した時のことです」と続く。
以上のことから南京研修のすばらしい成果を裏付けている。50年前の史実の公開は、人間、特に日本人に教訓を与える。「過ちだらけの人間」を改造する手段は、史実の公開である。日本軍と日本政府は、敗戦時真っ先に書類など負の遺産の焼却に必死だった。学校教育でも教えなかった。何も知らない無知な人間として教育してきた文部省に怒りがこみあげてくる。
確か天笠さんの娘は、学校の教師と聞いた記憶がある。父親は東京湾の恵まれた魚や貝やノリで生活してきた。そこに砲台ができ、敗戦後は海岸線が埋め立てられ、黒い煙と海水汚染で、暮らしは変わる。それでも「新鮮な魚と野菜」がいつも彼女の頭の片隅に。その思いと大虐殺のはざまでおののくのである。
「言葉になりません。残酷そのものの資料写真は、戦争の恐ろしさを日本人にも伝えていた」「婦女子までが無残に殺されている。自然に涙で顔がくしゃくしゃになった。今日では考えられないむごい映像や資料の山に震えた」
「それでも日本人孤児を育ててくれた。こんなことが日本人にできるのであろうか。深く考えさせられてしまった」
「戦争を二度としてはならない。いかなる事由、口実をもってしても反対である」との核心に到達する。
<子供や知り合いに伝える決心固める>
人間は「知る」「考える」「実行」を伴って、ようやく一人前になる動物である。南京大虐殺は歴史上存在した人類の残酷史の中でも、他に類例を見ない残酷さを国際社会に訴えている。その因果としての原爆投下であった。ヒロヒト日本軍国主義の戦争は、第一級の戦争犯罪であろう。
日本人はすべからく反省し、謝罪を100年、数百年かけて続けて行くしかない。にもかかわらず、2013年からの自公による自衛隊参戦法による憲法違反は許容できない。以来、両党の支援発言をやめた。目下の石破後継問題は、第二の安倍残党政権が目的ゆえに、不本意ながら石破擁護の立場を貫いている。また自公は、政教分離違反政党としても容認できない。
天笠さんは、当時君津市内でも小料理店を開いていた。新日鉄社員らに「戦争反対」を訴えていたであろう。鉄や銅と戦争には因果関係が見て取れる。日本製鉄のUSスチール買収がもめたのもそのためだろう。
<人民日報の討論会を聞いていても涙>
彼女は南京で涙にくれ、北京の人民日報会議室での50人の参加者と同社幹部との意見交換会でも、発言の一つ一つに涙が止まらなかったという。「戦争は絶対にしてはならない」と何度も心の底に打ち込んだ。
日本は80年前に「戦争しない」「戦争のできない国」の憲法を制定した。上総の国望陀郡茅野村の神童・松本英子が、亡命先のアメリカの大地で、死の床から叫んだ「非戦」論が、20年後に誕生したのだ。絶対平和主義の憲法を今も保持しているすごい国である。
戦争の惨状を知れば、みな天笠さんの心情に同意できる国民性を有している。恩師・宇都宮徳馬さんの「日本人の平和主義はいい加減なものではない」との確固とした自信満々な声は、今も聞こえてくる。彼女の思いは、日本人の多数の思いであろう。
30年前の旅は、夫と初めての海外旅行だった。南京のホテルでのカラオケ、上海の豫園での散策、北京の長安街と天安門広場と故宮の楽しい思い出も集めていた。北京では日本の中国大使館参事官だった陸国忠さん、元光明日報東京支局長の陳志江さんの案内も、素晴らしかった、と記憶している。これらは祝智慧事務局長の実績でもあった。
安倍の「台湾有事」論にごまかされる日本人は多数とは言えない。
2025年9月6日記(茅野村の仙人・日本記者クラブ会員)
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