福島(いわき)の今<本澤二郎の「日本の風景」(3295)
<賑わうフラダンスのハワイアンズ>
弟夫妻が「福島の温泉に連れて行く」とのうれしい招待を受けた。4月22日のドライブを兼ねた一泊旅行である。常磐炭鉱からの温泉を利用したフラダンスのいわき市のハワイアンズ。数十年前から聞いてはいたが、腰フリダンスはハワイでしか見られないと思っていた人間だから、興味などなかったが、せっかくの接待なので、喜んで行くことにした。
常磐自動車道で水戸を通り過ぎると、その先が福島県いわき市である。同市平は義母の故郷だ。彼女はよく「三田の経済」を口にした。夫が富山県福光町出身の広岡慎二、慶応ボーイだったせいだ。福光町からは松村謙三も出ている。周恩来が一番信頼した日本人だ。池田大作は、松村の紹介で周恩来と関係した。戦後の三大労働争議の一つである「東宝争議」に総務部長として苦労した広岡は、多分そのせいで50代の若さで人生を閉じた。
義母の身内には、平から北海道に渡り、馬喰組合のリーダーとして政界に転じ、社会党議員として衆院副議長となった正木清がおり、彼の東京生活の面倒を見ている。正木の話の中に「朝日新聞記者にはいつも金をせびられて困った」という秘話がある。亡き妻が教えてくれたものだが、正木は福島に原発を建設することに大反対だった。
遺族はそのことを今も誇りに思っている。原発再稼働の自公政権に怒っているはずだ。正木を裏切り、池田をも裏切った今の公明党である。
<首都圏から無料バス>
福島への道行きは、いろいろと考えさせられる。新幹線を利用しての東北行きは、数十年前は講演で出かけたものだが、車で常磐自動車道を走ると、水戸平野の豊かさがわかる。徳川時代の水戸藩の隆盛を裏付けていた。尊敬する宇都宮徳馬は、大杉栄惨殺事件に驚愕して、軍人の道をやめて、旧制水戸高に入り、軍事教練には高下駄をはいて周囲を驚かせている。
彼の反軍思想は大杉惨殺を契機としたものだ。佐賀出身の父親の陸軍大将を尊敬したものの、長州の山形有朋の軍閥とその配下の岸信介を政界で対峙した。宇都宮こそが名誉・地位を顧みなかった正義の、右翼暴力団に屈しない政治家だった。ナベツネの今は、宇都宮の支援によるものである。彼は政治記者時代に、福島出身の右翼の親玉・児玉誉士夫の軍門に、中曽根康弘ともども下った。そのせいかナベツネの資産は数百億円と言われている。
常磐自動車道を車で走っていると、様々な過去を思い出す。北茨城から福島県に入るところで、長いトンネルをくぐることになる。目的のフラダンスの温泉ホテルは、規模が大きく宿泊客1000人まで可能という。
2011年3月11日の原発爆破大惨事の影響が気になったが、どうして大変な賑わいにあっけにとられてしまった。原因の一つは、毎日首都圏から無料バスを走らせるという特別サービスをしていたことだった。これは見事な営業戦略である。
バイキング方式の夕食はおいしいのだが、ビールの値段がグンと高い。刺身は小名浜港のそれではなく、輸入物のサーモンだった。生エビはどうか。野菜やコメは福島産であろう。
フラダンサーの腰フリは、本場のハワイ以上かもしれない。常に笑顔と奇声をあげての元気さは、衰退する地方経済に、カツを入れる激励のようでもあった。無料バスに乗って日帰り、それとも一泊は悪くない。
<白血病の大見出しのスポーツ新聞>
受付のカウンター職員に訪ねてみると、311のあと数年間は客が来なくなり大変だったという。いまでは平常に戻っているという。首都圏からの無料バス運行作戦のせいだろう。
ホテル内を散策する車いすの高齢者は、親孝行の日本人がまだいる証拠だ。障害者のそれも目立つ。上階の浴場には、そのための椅子も用意されている。肉体的に恵まれていない人たちにとって、最高の憩いの場所に違いない。
かなりの高齢者の職員、受付に外国人も働いている。そういえば中国語も飛び交っていた。「安全な福島」なのかどうか、それはしかし、東電福島原発の深刻な現場を隠して、汚染水の垂れ流しや東芝製3号機の核爆発を隠ぺいする政府と東電・東芝の嘘、除染で40億円も懐に入れる会社役員など奇怪な事例が重なると、正直なところ安心とはいえない。
ロビーで不思議な光景を見た。23日付のスポーツ新聞を見ているお年寄りがいた。1面に「白血病」という大見出しが踊っている。わが友人もこれの治療をしている。わが妻は311の2年後に肺腺癌で亡くなった。
核爆発は中性子を放射する。これとの因果関係はないだろうか。アメリカは311の直後に1000か所で放射能測定、80キロ圏内禁止を打ち出した。日本は30キロ圏内、ここに大きな疑問も感じる。アメリカの測定を公表させる責任が、政府と議会にある。
<さびれる小名浜港>
安倍晋三は官房機密費をふんだんに使っているため、歌にもなった「小原庄助さん」のように、朝寝朝酒身上潰した、にならない。その逆だ。韓国の大統領のように自分の懐を傷めない。小生は朝風呂に満足して、まずは水揚げで有名な小名浜港に向かった。23日の午前である。
空は晴れて青かった。漁港の鳥の群れは、海鳥ではなく鳩だった。数隻の漁船は見えたが、人がいない。水揚げ場は中古のトラックばかりで、こちらも人影がない。鳩に餌を上げていた地元の中年男性に声をかけてみた。
「ここでも陸上2メートルも海水が上がった」という。地震と大津波で破壊された建物は壊すしかなかった。「以前の賑わいはない」といい、そのことを瞬時に確認できた。さびれてしまっているのである。
哀れ福島である。恐ろしすぎて手も付けられない原子力発電所は、この数十キロ先にあるのだろう。先ごろ、原発の前に背広姿で立った安倍の写真は、どうみても合成写真である。
<はるか遠方に海上大橋=汚染物質投機の放射能ごみ溜め>
漁港から西南に目を向けると、長い海上大橋が見える。車も走っている。観光用の橋なのか。違った。
「一般の車両は走れない大橋」と教えてくれた。「何かを投棄するための大橋ですか」「そうです」
それ以上聞くのをためらってしまった。観光用の大橋ではない。一般の車は走れない立派な海上大橋、さぞや素晴らしい景色に違いないのだが。
放射能汚染物質は、千葉県にも、水源地に、1万トン以上も、すでに投棄されている。ことし3月に聞いて確認したばかりだ。毎日新聞だけが報道した。これに地元の人たちが「原状回復」を求めて裁判を始めた。
千葉県でさえも、放射能がばらまかれてしまった。飲料水と農作物にも影響を与える。知事は森田健作という県外人間が決断した。安倍・自公内閣は、日本列島を「福島化」させているのである。
この国から夢と希望を奪いつくそうとしている安倍・日本会議、安倍・自公政権が、すでに8年目に入っている。この現実から、日本人はだれも逃げられない。政府専用機内で贅沢三昧と無縁の民衆である。
帰りは6号線で水戸まで走った。どこかで元気さを見つけようとして、窓から目を皿のようにして観察したが無駄だった。人がいない。たまにすれ違うと老人である。火曜日の6号線は、茨城県に入っても。
WTOは、韓国が福島関連8県の水産物輸入禁止を認める判断をした。嘘と隠ぺいの福島を、世界は知っている。日本人に蓋をしても無駄なことである。
広島・長崎から福島へと被ばくした日本人、また大地震が発生すると、日本沈没は本当になる!あまりにも低級すぎるアホ政権と、バレなければ何でもする霞が関と、政府与党に引きずられる議会によって、国滅ぶのか。
2019年4月25日記(東京タイムズ元政治部長・政治評論家・日本記者クラブ会員)