安倍と菅の心理戦争<本澤二郎の「日本の風景」(3483)

<安倍改憲戦略を狂わせた菅原・河井も菅の子分>

 こともあろうに、この1週間で二人の腐敗閣僚事件が発覚、首切りしなければならなかった安倍晋三首相と日本会議は、この7年で初めての政権の危機に立たされている。首相の女房役で政府スポークスマンの裏切り人事発覚という深刻な場面での安倍任命責任は、総辞職に相当する。経済産業省と法務省は、安倍の改憲軍拡路線の中枢を担ってきた役所である。

 トップは、いずれも菅が押し込んだ「適材適所」の入閣のはずだったが、就任1か月半で化けの皮がはがされてしまった。衝撃を受ける安倍と菅の信頼関係は、ことごとく切れてしまった。

 普通であれば、殴り合いの場面である。今後は、両者の心理戦争が政権の帰趨を決めることになる。


<「俺を貶めたな」「もう信用できない」と思い込んだ心臓>

 安倍の心臓は破裂しそうに鼓動を早めている。安眠どころの騒ぎではない。即位外交で小国の元首と繰り返し名刺交換、くたびれてしまっている中での相次ぐスキャンダル発覚である。


 二人とも確たる証拠がある。得意の嘘で逃げ切ることはできない。任命責任者として打ち首にしたものの、これで終わったわけではない。国会での徹底した追及が待ち構えている。そのうえで両者の刑事責任へと進行する。自公政権の失墜である。


 まともな野党が存在すれば、審議が相次いでストップ、法案審議どころではなくなる。国民は10%消費税と、信じられないほどの不正・腐敗を前提とした高額の原発電力料金に泣かされている事実を、関電疑獄事件で知ったばかりである。

 国民の怒りは、文字通り天を衝く勢いだ。議会も捜査当局も、これを止めたり無視することは不可能であろう。


<菅の安倍後継が消えて、内閣はガタガタ、野党に好機>

 先の人事で主役となった菅は、よたよたの二階の幹事長留任を勝ち取った上での強行人事作戦の成果だった。いうところの岸田外しだった。安倍も応じたが、どっこい、それによって菅への反発は党内に燃え広がっていた。


 そうした怒りの線上で、菅原と河井夫妻への、まだ新しい1か月前の腐敗が次々と炸裂して、閣僚失格となったものである。

 しかも、この二人は安倍の改憲軍拡路線を推進するエンジンの役割を担っていたものである。「菅に裏切られた」との安倍の思いは、容易に想像できる。心臓が次々と破裂した瞬間である。忠臣が見事に裏切って見せたのだから。しかも、菅が安倍後継に名乗りを上げたことを、象徴・裏付けた人事でもあった。


 幹事長に留任した二階は、安倍4選ラッパを吹き鳴らす一方で、菅の安倍後継者ラッパをも、内外に吹聴していた。その土台が、菅原であり、河井夫妻だった。

 そこで地雷がさく裂した。内閣は根幹が崩壊してガタガタである。天は、防災小国の日本に対して、相次ぐ台風で傷めつけ、同時並行して政権の中枢さえも直撃したかに見える。


<スパイ合戦さながらの疑心暗鬼の自民党・公明党>

 先の参院選で、菅を喜ばせた選挙戦は、岸田の故郷である広島に、岸田派現職に、新人の河井の妻を擁立、勝利したことである。菅は過去に宏池会に所属したが、そこを抜け出して安倍に食らいついて、官房長官の要職に就いた。

 岸田宏池会にただならぬ敵対心を抱いていることが、この河井の妻を擁立したことから判断できる。菅は手玉に取っている公明党創価学会を、そこに集中させて勝った。

 公明党創価学会に対して、相当の資金を流したとされる。結果は、岸田派の現職を落として、菅が担いだ河井の妻が当選した。このような熾烈な選挙の場合、双方とも、スパイを相手陣営に送り込むという戦国時代さながらの戦いを繰り広げることになる。


 河井の妻の公選法違反事件も、あっけなく発覚した。夫妻そろっての腐敗が暴露されてしまった。


<菅と公明党創価学会に敗北した宏池会の巻き返し>

 河井の妻の当選は、そのまま岸田の安倍後継総裁の芽を摘んだことになる。岸田の無念はいかばかりか。安倍に服従した自業自得とはいえ、あまりにも無残な敗北となってしまった。

 「菅原と河井辞任で多少留飲を下げた宏池会」なのかもしれないが、ここは宏池会の巻き返しの行方が注目されよう。2019年危機本番を迎えたことになるだろう。

2019111日記(東京タイムズ元政治部長・政治評論家・日本記者クラブ会員)